12月。
この町に雪が降っている。
小さな町はその色を変え、一面の銀世界へと変わっていった。季節の移り変わりというのはホント早いものだなと俺は思っている。
この日は雪のため早く仕事が片付き、早く帰れることになった。
最近は遅めの帰宅だったため、久しぶりに早めに帰ってやろうと思ったオレは、渚と汐の待つ我が家に真っ直ぐ帰宅しているところである。
こんな時間に帰ったら、驚くだろうな。
そう考えると、あの二人の笑顔が頭に浮かぶようであった。
渚と結婚して5年目になる。
オレ達とのあいだに汐が産まれ、家族3人で暮らしている。
家族というのには、嫌なイメージしかなかった…。
そんなオレも、渚と知り合い、その家族とふれあったことで、こんな家族もあるんだと知った。
それが、オレにとっては、うらやましかった…。早苗さんは好きだし…、まあ、オッサンは未だ苦手だし…。
オレは、そんな人たちに支え支られながら、今をがんばってきている…。
渚と汐の幸せのため…、家族を守るため…。
このアパートも、金が貯まるまでと思っていたけど、あえて出ようとはしなかった。なぜだか、ここが居心地良くなっているし、渚もここが好きだと言ってくれるからな。
まあ、いざの時は何とかなるだろう。そんなことを思っていた。
「ただいま」
ドアを開けると、外の寒気と違う暖かな空気が流れてきた。
そして奥から、
「おかえりなさい、朋也くん」
やっぱり、仕事で疲れていた時に誰が待っててくるとなると、こうも違うものかなと思う。
「今日は早かったんですね」
「ああ、仕事が雪のため、早く片付けられたからな」
「そうですか。なら、もうすぐご飯ができるので、その間しおちゃんを見ていて下さい」
どうも、丁度夕ご飯を作っている途中のようだった。
渚も、レストランでウェストレスの仕事をしている。前はアルバイトとして入っていたけど、汐が産まれ、幼稚園に入園するようになった頃から本格的に働き始めている。
渚のあの原因不明の高熱も、汐を産んでからそれがウソのように出なくなった。
それはそれでホッとしている。
居間に行くと、可愛い娘は絵を描いていた。
「あ、おかえりなさい、パパ」
そういうと、オレに抱きつき満面の笑みを浮かべていた。よっぽど、早く帰ってきたことが嬉しかったんだろうな。
「ただいま、汐。何書いていたんだ?」
「だんごたち。いっぱいかけた」
やはりそうきますか…。ホント、母娘そろって同じものを好きになるとはな。
まあ、あれだけお腹にいた汐にだんご大家族を聞かせていたからな。
ふと、汐がオレから離れて、何かを探していた。
「はい」
汐はそう言って一枚の画用紙を差し出してきた。
そこには3人で仲良く花畑で笑っている絵。
「それはですね、幼稚園で思い出を題材に書いた絵みたいです。杏さんからも、とても良く書けていると褒めて貰ったんです」
丁度夕ご飯が出来たらしく、渚が料理を持ってきているところであった。
「へえー、よかったな、汐」
「うんっ」
オレは汐の頭をなでてやった。
汐もそれがとても嬉しいみたいで笑っている。
「さあ、ご飯にしましょう。朋也くんとしおちゃん、運ぶの手伝ってください」
渚も笑っている。オレはそんな二人を見てなんか嬉しくなってきた。
12月も半ばとなり、もうすぐクリスマス&渚の誕生日がもうすぐに近づいていた。
今年もオッサン達と一緒に誕生日を祝うことになっている。
プレゼントは…、まあだんご大家族のぬいぐるみだろうな。
毎年捜しているけど、よくもまあ、見つかるものだと思っている。
しかし、あれ一体何種類あるんだ?こうも、色違いが見つかると、そう思えてくる。
『だんご大家族は沢山いますから、色んな色の子がいるんです』
そんな渚の声が聞こえてきそうだった…。
仕事の場所が丁度古河パンの近くであったため、休憩中に少し見に行ってみようと思った。
芳野さんにも了解を得て、店に入ろうとすると、突然ドアが開き、中から、
「私のパンは…私のパンはお遊び用だったんですねーっっ!!」
と、早苗さんが泣きながら飛び出していった。
その後に、
「オレは大好きだーっっ」
オッサンも飛び出してきた。
勿論早苗さんのパンらしいものを銜えて。
これが普通の光景なんなのだがあまりの突然のため、オレは唖然とし、その場に立ち尽くしてしまった…。
しばらくして…、
「……ちっ、また見失っちまった……」
オッサンが息を切らしながら帰ってきた。
「また早苗さん泣かして」
「あん?テメエいたのかよ」
「いたらワリーかよ」
オレは普通に答える。
「また何したんだよ」
「いや〜何、隠れて早苗のパンでお手玉したり蹴ってたらよ、見つかっちまって」
…この人は何やってんだか。ってパンで遊ぶものか?
「まあ何にせよ、またどこかしろに埋めてくるなり、そこらにいる野良犬でもあげりゃいいがな」
「あのさ」
「あん?」
「早苗さん、後ろにいるぞ」
「えっ!」
オッサンの後ろで、早苗さんは泣き顔になって立っていた…。あーこうなると、
「私のパンは……、私のパンは生ゴミ以下だったのですねーっっ!!」
いや、そこまでは…
「あーーちくしょう、なんでこうなるんでよ。早苗、オレは大好きだーっっ」
またいつもように、二人して走っていった…。店番、誰がするんだよ。
ふと腕時計を見てみた。
すると、あまり時間がないことに気づき、オレは古川パンを後にし、仕事場に走って戻った…。
週末の休みになり、渚と汐と一緒に古河パンに向かってた。
お互いの手が冷たくならないように、二人の小さな手とオレの大きな手を繋いで。
来る途中、汐は道に降り積もった雪で遊んでいた。ホント、子供というのは元気があっていい。
オレも渚も、そんな気持ちであった。
店の中に入ると、ちょうど早苗さんが出てくるところあった。
「あら、渚に朋也さん、汐も、いらっしゃいませ」
「こんちわ」
「ただいまです」
「こんにちわ」
挨拶を済ませると、奥からオッサンも出てきた。
「おう、お前達来たか。早く中入れや」
「さあ、寒かったでしょう、中にどうぞ」
「はい。しおちゃん、朋也くん、入りましょうか」
そしてオレ達は中に入っていった。
オッサン達と中で色んなことを話していると、
「そういえば、朋也さん。こんなのはいかがですか」
ふと早苗さんは立ち上がって、何かを持ってきた。どうも広告の紙みたいだ。
「……なんですか、これ」
広告には、『〜だんご大家族感謝祭〜』と書いてあった。ふと日付を見てみると、丁度12月24日となっていた。
「渚と汐が喜ぶと思いまして、とっておいたのです」
これはまた凄いイベントを考える人がいるものだな。
そして、案の定、二人の反応はというと…、
「凄いです、だんご達が一杯です。朋也くん、是非行きたいです」
「うしおも行きたい」
やっぱり、親子そろって似たもの同士だったということだ。
まあ、予想は出来ていたし、二人が喜ぶならいいか。
「よし、良いぞ。行くか」
「はいっ」
「やったー」
渚と汐も喜んでいる。ホント、この笑顔には何度癒されただろう。
「良かったですね。三人で楽しんでください」
「おう、行って楽しんで来いや」
今年は、三人でだんご大家族感謝祭に行くことになった。
楽しい思い出が出来るといいな。そんなことをオレは思っていた。
12月24日。待ちに待った、だんご大家族感謝祭の日である。
この日は朝から、汐がそわそわしており、かなり落ち着きがないように見える。渚もそれが移ったのか、えらく時間を気にしていた。
「渚も汐も、少しは落ち着けよ。始まるのは夜なんだから」
何とか落ち着かそうとしてけど、今更この二人を止めることは無理だろうな。
ホント今日が楽しみなんだろう。
「朋也くん、今日は早く帰ってきた下さいね」
「ああ、わかっているよ」
朝ご飯を食べ終わり、汐を幼稚園に送った後、オレと渚もそれぞれの仕事に向かった。
オレは急ピッチで仕事を終わらせようとした。
その結果、いつもの時間で仕事を終わらせることが出来た。親方に挨拶をすませ、オレは急いで家へと戻った。
「ただいま〜」
家に帰ると、渚と汐はもう帰っており、行く準備を始めていた。
渚の方も、店長に頼みこんで仕事を早く終われるようにしたらしい。
「あ、お帰りなさい」
「パパ、おかえりなさい」
二人とも外は寒いため、出来るだけ暖かい格好をしていた。オレも急いで服とか着替え始めた。
そして準備も出来て、戸締りのチェックをした後、
「よし、二人とも行くか!」
「「おー!」」
号令と共に、オレたちはアパートを出た。
そして、コソッとポケットにあるものを確認した。
電車で隣町に行き、そこからは歩きで会場に向かった。
来てみると、そこにはもうかなりの人がいた。
「……凄いな、これ」
よくこんなのものに集まったことだな。まさか渚と汐みたいなのがこんなにいるとは…。
オレがそんな事を思っていると、
「朋也くん、早く行くましょうよ」
「パパ、はやく〜」
二人が先の方で呼んでいる。
「はいはい、そんなに急かすなよ」
オレは二人のもとに走りよっていった。
祭り自体は出店が多く出店されており、これを一つ回ることに、渚と汐はあれやこれやと目を輝かせ見ている。
見てるこっちが恥ずかしくなる位に…。
「朋也くん、これ見てください」
「パパ、これみて」
渚と汐がだんごのグッズを見せてくる。
「これが欲しいのか?よし、買ってやるか」
「え?いいんですか」
少し遠慮しがちに渚が聞いてきた。
「なに、どうってないから心配するな」
そういうとオレはそれをレジに持っていき、二人に手渡した。
「ありがとうございます、大事にしますね」
「パパ、ありがとう」
ホント、喜んでくれて良かった。
それからは何店もの出店を見てまわり、別の店を回っている時だった。
渚と汐が射的のところを見ていた。
ふと二人が見ている先を見てみると、その先には…一等の景品のだんごのぬいぐるみ。しかも、今あるやつより、少し大きかった。ホント好きだよな、この二人は。
さて、欲しそうにしているこいつのために、いっちょ頑張ってみるかな。
オレ達は射的の出店に行き、オレと渚と汐で一回ずつやることになった。
最初は渚が挑戦し、オレ達は固唾を呑んで見守った。
その結果…
「……ダメでした」
玉を的に書かれた番号に当て落とすという仕組みで、一等の的はかなり当てにくい所にあった。
次はオレの番である。
「頑張ってくださいっ」
「パパ、がんばれー」
オレは二人の一層の期待を背負って、的を狙った…。
「「♪♪♪〜」」
二人はそれぞれのぬいぐるみを持って、終止ごきげんであった。
オレが打った玉は、的には当たらなかった。
その後は、オレが何回も挑戦していたため、周りにはだんだんと人が集まってきて、そこだけが一種のショータイムのようになっていた。
オレも流石に諦め、汐にやらせてあげることにした。
その後が凄かった…。
小さい子も出来るように準備されていた椅子に乗っかり、汐が狙って打った玉は…。
なんと的に直撃し、落ちていった。
その瞬間、何が起こったのか分からず、誰もが黙りこくっている。
そして打って変わって、鐘のベルと共に大きな拍手が起こった。
「しおちゃん、凄いです!」
「凄いぞ、汐!」
二人で娘を褒め称えた。その本人は、何が起こったか分からないような顔をしていたが、すぐに笑顔で喜んだ。
「えへへ〜」
ホント、娘はオッサンに似て凄い運動神経してるな。そこは完全に遺伝というものだろうな。
そして景品のだんごを貰う時、出店のおやじさんがオレの頑張りを称えて、特別にもう一つ貰ったのだ。
「……しかし、そんな大きいのどこにおく気なんだよ」
「そうですね、今日から抱いて寝ることにします」
…マジですか。そうなると、オレは毎日のように、あの大きなだんごに挟まれて寝るのか…。
ある意味嫌な光景だな…。
でも、渚と汐が喜んでいるようだし、まあいいかな。
祭りも終わり、渚も汐もかなり満足していた。ホント、来て良かったよ。
「……しかし、最後にあの歌でしめられるとは思わなかったな」
「ええ〜、結構良かったですがね」
ホント、ある意味だんご大家族感謝祭に相応しい終わり方だったかな。
オレは帰り道で、
「今日は楽しかったか?」
渚と汐に聞いた。
「はいっ、とっても楽しかったです」
「たのしかった」
二人がそう答える。オレはパケットの中にあるものを渡そうと思った…。
「渚、少し目をつぶっててくれ」
「えっ?」
少し驚いた様子だったけど、素直に目をつぶってくれた。
オレはそっと、渚の首にかけてやった…。
「いいぞ」
「えっ…朋也くん、これ…」
「誕生日おめでとう、渚」
渚の首には、トルコ石のついたネックレスがあった。
昨日のことである。
注文していただんごのぬいぐるみを取りに商店街を歩いている時に、ふと、立ち止まってあるお店が目に入った。
そこは宝石ショップで、折角だから、アイツが驚くようなものもプレゼントしてやるか。
そう思うと、オレは恥ずかしさ覚悟で店の中に入っていった。
結局、何を買えばいいか分からず、店員の人に任せながらこの誕生石のネックレスを選んだのである。
少し懐が痛かったが、これも渚のためと思えば苦にもならないな。そう考えることにした。
渚はどうも状況が読み込めず、さっきからぼーとしていた。
「渚」
オレは呼んでみる。
「は…はい」
「もしかして嫌だったか」
「い…いえ、そんなことないです。ちょっとびっくりしただけです……。まさかこんな高価なものを貰えるなんて、思いませんでしたから」
何とか話せるようになってきた。
「いやな、たまにはこういうのをやるのも悪くないかなと思ってよ。お前にもいっぱい迷惑かけてるしな」
「いえ、そんなことないです。私の方こそ、朋也くんに心配をかけているんじゃないかと思います」
「そんなことねーさ。オレは渚のことが大好きだからな」
「はい。私も、朋也くんが大好きです」
オレは渚を抱きしめ、そしてキスをした…。
「本当に、ありがとうございます。一生大事にしますから」
「大げさなやつだなー、それくらいで泣くなよ」
「はいっ、えへへっ」
そうして、オレ達は古河家に向かった。
古河家に行くと、案の定、渚の誕生日会の準備が出来ていた。
オレは預かってもらっていただんごのぬいぐるみを改めて渡し、汐も、渚のため幼稚園で作ったというだんごの折り紙を出してきた。
貰った瞬間に嬉しさのあまりか、泣き出すはめで、オレも宥めるのに大変だった。
ホント、こいつは昔と変わらないところがあるな。
実をいうと、汐にも、祭りでコソっと買っておいただんごのペンダントを渡し喜んでくれた。
少し飲みすぎたのか、オレは公園のベンチで涼んでいた。
そうしていると、オッサンも中から出てきた。
「なんだ、こんなことにいやがったのか。風邪引くぞ」
オッサンは、オレの横に座ってきた。
「……渚と汐、ほんと幸せそうじゃねーか」
「ああ、あの二人が笑っていられるなら、オレはどんなことでもやってやるつもりだ」
ホント、オレも変わったように思える。
変われたのも、渚と汐の存在があってこそである。
だからオレはあの二人を守っていく。家族だから。
「けっ、小僧のくせに大人びたこといいやがって」
そういうと、ベンチから立ち上がり、
「だがな、朋也」
「ん?」
「俺たちも家族だ。何かあった時は絶対に相談しろ」
オッサンの言うことも分かる。家族がどれだけ大切であり、大きなものか。
「ああ、わかってんよ」
「けっ、ならいいんだよ。あー、寒いぜ」
オッサンはタバコをくわえて、中に入っていった。
それと入れ違いになるように、店の中から渚と汐が出てきた。オレは二人を呼んでいた。
「ホント良かったな、毎年祝ってもらって」
「はい、そうですね」
「また来年も、やろうな」
「はいっ」
渚が笑ってる。ホント嬉しかったのだろう。
オレは一つ聞いてみた。
「渚、汐。今幸せか?」
その問いをすると、二人はすぐに…
「はいっ、朋也くんとしおちゃんと一緒で幸せです」
「パパとママとアッキーとさなえさんといっしょだからしあわせ」
これを聞いて、オレも幸せな気持ちになった。
「ああ、オレも、二人と一緒だから幸せだ」
オレ達は抱き合っている。いつまでも、こうしていたいと思った。
「あっ」
汐が何かに気づく。
「雪です」
空から雪が降っている。
それはまるで、汐が産まれたあの時のように。
町が一つの家族を祝福するように…。そんな風に思える。
「戻ろうか、渚、汐」
「はいっ」
「うんっ」
オレ達は古河家に戻った。三人で手を繋ぎ、小さな手のひらと大きな手のひらを暖めあいながら。
◆◆◆後書き◆◆◆
う〜はじめまして、今回初めて書いたのですが、如何でしょうか。こんなの、水すら与えられず、何れ枯れる花のようなものでしょうね。自分で言うのも何ですけど。実は、これクリスマスまでに書こうと思い、頑張ったのですが、結局間に合わなかったのです…。ホント、トロイのは嫌です。
クラナドやり始めたのが、何時の事やら。実に良い作品だったです。私もこんなの創りたいと思い、何れ書こうかなと心に決めていたのですが、なかなか書く勇気が出ず、ここまでズルズルと言ったのです…。まあ、ちょっとしたきっかけで書く気になったのですが。
え〜、万万本音を言って下さい。罵声なり、悪口なり、どうぞお構いなく。どうせ存在なんですから…私の書く物など。
2006/1/22 WRITTEN BY
"K"
2007/11/10 脱字・誤字修正、プロット変更
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